Vol.1_Interview : Dai Naruse / Leather Craftsman

objcts.ioがMoore Soft Backpackの生産やその他製品のサンプル製作を依頼している職人・成瀬大さん。objcts.ioのデザイナーである角森が、学生時代から10年以上刺激しあってきた職人仲間のひとりです。
複雑なつくりや通常とはすこし変わった仕様のobjcts.ioのプロダクトも、持ち前のセンスと職人らしいきめ細やかさできれいに仕上げてくれます。

今回は、角森との対談を通して「つくり手の目に映るobjcts.io」をテーマに伺ったお話を、全2回にわたってお届けします。

objcts.ioのサンプル製作と、サンプル職人 成瀬氏

サンプル製作とは、バッグや小物などを生産するにあたって必要になる製品の「見本」のことで、デザインの設計図を型におこし、1からプロダクトを組みあげるプロセスです。
つまり、それまでは紙の上でのみ進んでいた製品開発が、初めて実物として再現される瞬間となります。

objcts.ioは、見た目の美しさと同じくらい機能面の使いやすさを追求するブランド。
Moore Soft Backpackも、シルエットの美しさと軽さ、デバイスの保護性など、全ての要素が自然な形でひとつにまとまっているという条件を妥協せずに開発した製品です。

ユーザーからのフィードバックをもとに製品開発を進めているobjcts.ioでは、重要なキーとなるのがこのサンプル製作。
サンプル職人としての経験を堅実に積んできた成瀬さんをはじめとする、若いながらも高いスキルを持った職人達に支えられて、objcts.ioの製品開発はまわっています。

成瀬氏の手で生み出された
ユニークなプロトタイプ達

角森 : 成瀬くんには、objcts.ioがローンチする前からサンプル製作を依頼してたよね。過去のプロトタイプには、レザー製のケースとしては用途が限定的なものも多かった。でも、成瀬くんは一見「なんだそれ?」と思われるような少し変わったものを依頼しても最終的にきれいな形で仕上げてくれるセンスがあって、とても信頼をおいています。依頼する側としてもすごく安心だし、助かってます。

 

成瀬 : ありがたいですね。僕が過去に製作したのは、掃除機のアタッチメントを収納するCleaner Attachment Case、Amazon Dash ButtonとSIMカード専用のケースでした。
SIM Card CaseもAmazon Dash Button Caseも、たしかに構造や仕様などは一般的な小物とはちがう難しさがありますが、Cleaner Attachment Caseのサイズの大きさに比べたら全然楽なほうでした。あれは製作する時にあちこちぶつかるし、白い革をつかったサンプル製作だったので汚れたらどうしようかと気になったり、なかなかキツかったです。当時は工房もいまの半分くらいのスペースしかなかったですし…。

成瀬さんが製作した、objcts.ioが過去に開発したプロトタイプ
 写真1枚目 : 白いレザーを使ったCleaner Attachment Case
The Cleaner Attachment Caseの前身となるプロトタイプ)
 写真2枚目 : Amazon Dash Button Case / SIM Card Case
※いずれも非売品。実物はSHOWROOMにてご覧いただけます。

成瀬 : 今は、ほぼOEM(委託製造)中心でやっています。色々なブランドさんから委託されて製品を作るのがメインの業務になっていますね。あとは、自分自身のブランドでオリジナルのレザー小物を作ることもあります。現状そこまで型数はないですが、販売もしていますよ。

もともとは角森さんと同じ革製品メーカーでサンプル職人として6年働いていて、独立後に文化服装学院時代の同級生3人とアトリエ兼ショップをオープンしました。自分が仕事を直接受ける以外にも、その仲間のお客さんから部分的に仕事を振ってもらったり、紹介してもらったりという事もありますね。

角森 : 自分でブランドをやる場合と比べて、入ってくる情報も人との繋がり方もだいぶ違っていそうだね。

 

成瀬 : そうかもしれないですね。自分はお客さんとああだこうだと色々話しながら製作していくのも好きですし、作るもの自体に幅ができるので楽しんでいます。
いろいろなブランドさんとお仕事をしていくうえで、自分の作りたいもの、やりたいことなどを探ったり、またそれが変わったりと、模索する機会にもなっていますね。

パーツ数は通常のバックパックの2倍
複雑さが引き出す、職人の顔

角森 : なるほど、そういう学びとか楽しさはありそうだね。そんな成瀬くんでも、objcts.ioがローンチしたての頃に開催した最初の展示会に来てくれたとき、Backpackを見てはっきり「うわ、これ絶対発注受けたくないな…」って言ってたよね(笑)。

 

成瀬 : すみません(笑)。初めて見たときには正直「こんな大変そうなもの、絶対作りたくないな」と思いました。なにせパーツ数が多いので…。そもそもバックパック自体がバッグや小物よりパーツ数が多いものではありますが、その中でもこのMoore Soft Backpackはパーツ数が通常の倍くらいあって。特に端末を保護するための芯材はかなり細かく入っていますよね。革の部分だけで言ったら「普通よりちょっと多いかな」くらいですが、中身のパーツがとにかく多いつくりになっています。

 

角森 : 外からパッと見ただけだと、なかなか分からないよね。実際作っている人じゃないと気づかない部分だと思う。パーツ数が倍なのに軽さにもこだわるという、なかなか矛盾した作りになってる。あとは、綺麗なフォルムを維持する目的でも芯材を駆使した作りになっていますね。

 

成瀬 : パーツの多さもさることながら、パーツごとに工程がすごく多いんですよね。前胴のところは肉盛りするところがあったり、マチのところも結構芯材が入っていますよね。1枚入れて、2枚入れて、更に3、4枚目を入れる…という感じです。同じ部分なのに微妙に芯材の形が変わったりもするし、作る立場から見るとなかなか複雑な事をしていますね。一番大変なのが背中の部分で、ショルダー含め、たくさんあるパーツが全て付いた状態でステッチを縫わないといけなくて…。

角森 : 冷静に考えてみると、けっこう酷なことお願いしてるよね。でもなるべく考えないようにして渡してた。あとは成瀬くんの腕を信頼して「なんとか頼んだ!」という感じで…。
成瀬くんに依頼し始めた時点ではすでにMoore Soft Backpckのデザインや仕様はほぼ完成していたけど、生産を進めながらマイナーチェンジさせてもらった箇所もあったよね。

 

成瀬 : そうですね、芯材がさらに増えた箇所もあれば、芯材を使っていたところが革に変わったりとか、そういうちょっとした変化はありました。でも、それによって作りやすくなった面もあったりして。
全体的にかなり複雑な作りではあるのですが、各パーツさえ出来上がってしまえば、工程としては最後にそれをまとめる作業があって完成、という流れです。とはいえ、大変は大変です、パーツの取り付けも。

角森 : いろいろ複雑な工程をこなしてくれていると思うんだけど、成瀬くんが「特に大変そう」と言っていたのはショルダーベルトのパーツだったよね。

 

成瀬 : そうですね、この肩ベルトのステッチ部分は特に、はじめはミシンがけに一番苦労していました。でも、やってみてから暫く経って、最近ではこの工程をやっている時が一番ゾーンに入るなって気づいたんです。そうなったらむしろ一番掻き立てられるというか、集中して一気に進める工程になって。ある意味、すごく楽しめるようになりました。

 

角森 : それを聞いたとき「やっぱり成瀬くんって本当に"職人"だな」って思った。少なくとも僕よりはずっと職人肌な気がする。

 

成瀬 : この工程に取り掛かるときはイヤホンして、完全に周りを遮断してやってます。自分の世界に入ってショルダーと対峙する感じで。ここが綺麗にいくとすごく気持ちいいんですよね。大変な作業ですけど、やりがいのある工程なのでテンションも上がります。

他ブランドの仕事を引き受けることの楽しさや、Moore Soft Backpackを製造することの大変さを素直に語ってくれた成瀬さん。着実に経験を積んできたプロの職人でも「かなり複雑で作るのが大変だ」と言うほど、我々のプロダクトでは見えない部分のつくりも追求しています。

きれいに仕上がった完成品を見るだけでは気づかないプロダクトを支えるこだわりを、本記事から感じていただけたら幸いです。