Co-Prototyping Project No.2『Essential Camera Strap』with Nagisa Ichikawa

Co-Prototyping Project No.2
『Essential Camera Strap
with Nagisa Ichikawa

objcts.ioのものづくりの可能性を広げるべく、様々な領域で活躍するスペシャリストとプロダクトを共創するプロジェクト「Co-Prototyping」。

2019年に発売した第1弾プロダクト※『Mavic Air Bag』から4年の時を経て、この度第2弾をローンチしました。

 

本プロジェクトでは、プロトタイピングの段階から特定の専門領域の方にご協力いただくことで、個性的なプロダクトを作り上げることを目的としています。

※『Mavic Air Bag』の販売は終了しております。

第2弾のパートナーは、第1弾に引き続きクリエイティブ・コンサルタントとして活躍されている市川渚さん。本記事では、企画の立ち上げ段階から彼女と共に行った製品開発の裏側と、完成したプロダクト『Essential Camera Strap』についてご紹介します。

「理想のカメラストラップ」を作るに至った経緯

角森:僕が記憶している限りだと、2年前。
市川さんにお会いする機会があって、そのときの帰り際に「最近欲しいものありますか?」って伺って。そしたら「カメラストラップで欲しいものになかなか出会えない」って仰られていたんですよね。

市川:そうそう。これまで色々なものを購入したんですけど、デザインや仕様のバランスがしっくりくるストラップがなかなか見つからなくて。

レザー製だけど薄さが気になるとか、そもそもカメラ側の取付部の形状の関係で取り付けられないものとか。「これならいいかな」というのはあるものの、心から「これだ!」と思えるストラップとは出会えていませんでした。

 

角森:そのお話を伺ってから1年くらい間が空いてしまいました。

シンプルに自信がなかった。カメラストラップで良いものを作れる自信がありませんでした。笑

市川:素人目線だと、そこまで開発の難易度が高そうには見えないプロダクトではありますよね。

 

角森:そうですね、すごく複雑な構造ではないのですが、だからこそできることが限られるなと思って。せっかく作るなら「機能性を担保しながら審美性の部分も追求して、objcts.ioらしいものを作ろう」と思ってやりたいんですが、それが結構難しいなと…。結局そのまま1年くらい悩んだ気がします。

 

角森:でも、悩む中で「前回ドローン専用バッグを一緒に作りきった市川さんとだったら、できるかもしれない」と思うようになり、決意を固めました。

 

あの時はドローン、今回はカメラを日々使っている渚さんの存在が、パートナーとして重要だなと。僕は日常的にカメラに触れているわけではないので、自分だけで作っていては的外れなものが完成するかもしれない。なので、作りたいプロダクトのイメージの部分を渚さんに補ってもらえるようにお願いしました。

 

共同開発の進め方
共同開発の進め方で意識したのは、
互いの強みを掛け合わせること

角森:一番最初に、お互いの役割を明確にしました。

 

市川:例えば、私がデザインを描いて「こんなイメージです」とかは一切言っていません。あくまで私はリサーチの部分を担当しました。インスピレーションを与える役目、というか。

 

普段カメラに触れている私の目線で、他社のストラップの良いところと改善したいところをお伝えしたり、「こんなアイテムもありました」という情報を共有したり。製品を具体化する部分は角森さんにお任せしました。あくまでも「objcts.ioの製品である」ということは大切にしたかったので、そういった役割分担をしましたね。

 

角森:僕は渚さんと別の視点で進めたかった。一緒に同じところを見ていると、盲目的になってしまうこともあると思うんです。

なので、役割を明確に分けることで、例えば僕の視野が狭まっているときには渚さんが別の視点から意見してくれることもあるんじゃないかと思って。

 

市川:迷いもないし、余計な作業も発生しない。意見交換は随時していましたね。

 

使い手のスタイルに馴染む
プロダクトを開発するために

市川:これまで理想のカメラストラップに出会えなかったのは、服装や持ち物など、私の普段のスタイルを邪魔せずに、むしろアクセサリーのように格好良く見せてくれるものがなかったから。ストラップを作る上で、そこは妥協したくないというのが私の中で特に大事なポイントでした。

 

角森:そのお話を伺って、渚さんのファッションスタイルが分かるお写真を10枚ほど送っていただきました。まずは機能のことを考えずに、渚さんのスタイルを改めて見てみようと思ったんです。

 

市川:あとは、カメラストラップだけではなく、バッグなどのファッションアイテムまで範囲を広げて、お互いに「素敵だな」と思う他ブランドの製品なども共有し合いました。装飾や編み込みなどのデザインが特徴的なものや、樹脂素材を使ったユニークなプロダクトなど。ビジュアルでイメージを擦り合わせる中で、自分たちが理想とする美しさを追求していきました。

審美性と機能性を両立させる難しさ

角森:そうして渚さんのスタイルや沢山の美しいものを見てインプットした結果、「分からない!」となりました。笑

※1stサンプル

Photo by Nagisa Ichikawa

「分からない」というのは、審美性を追求する中で“あるべき姿”が見えてこなかったから。インプットしてから機能の要件を整理したのですが、その際僕が決めたのは大きく2つでした。

 

・あらゆるカメラに取り付けられること

・柔軟な持ち方ができること

 

サイズ調整ができて、首掛け・肩掛け・手持ちを自由にできる。この機能を要件として考え始めたのですが、思ったより難しくて正直苦しかったです…。

 

そこで、渚さんにその時点で抱えていた課題を相談することにしました。その時、まず最初に渚さんが言ってくれたのが、「審美性を犠牲にしてまで画期的な機能は入れなくても良い」ということでした。

市川:確かにお伝えしましたね。objcts.ioが普段作っているプロダクトに通づるような、レザーを使ったオーセンティックなストラップは他にないですし、それを素直に作るだけで良い物ができるのではないか、と。

 

角森:そういった視点自体もそうですが、その言葉の説得力って、渚さんが言うからこそだと思うんです。

これだけ今までに様々なカメラストラップを見てきた人がそう言うのであれば、いちユーザーの意見としてもすごい説得力があって。そこで一気に方針が決まっていった気がします。僕にとっては大きな転換点でした。

Photo by Nagisa Ichikawa

ユーザーに近い存在が、使用検証したことの強み

角森:1st、2nd、3rdと試作サンプルがアップデートされるたびに、渚さんに使用検証していただきました。実際にしっかり使っていただいたからこそ、ミリ単位のストラップ幅もちょうどいい細さにできたのだと思います。

 

市川:ストラップ幅は15,18,20mmの3種類があって、最終的には15mmの幅に決まりましたね。

肩や首への負担を考えて幅の広いストラップも用意していただいて試したのですが、私の体型でも15mmくらいの細さで問題ありませんでした。

※手前から順に、15mm・18mm・20mm

Photo by Nagisa Ichikawa

角森:15mmにしたことで、全体の印象がぐっと引き締まりました。数ミリの違いですが太いストラップだと少し野暮ったい印象に思えて。あとは使ってみて気付いたのですが、15mmにしたことでストラップ自体を結べるようになったんですよね。

 

市川:これが良いんですよね。結んだ状態で短く持てるのは、製品の魅力としてとても大きい。また、この細さだから手に巻いても使いやすいですし。

角森:初めは機能性と審美性を両立させることは難しいと思っていましたが、最終的には解決策に辿り着きましたね。

 

実はこれ、objcts.ioの製品開発をする上ではよくあることなんです。審美性を追求していくと、自然と機能性も担保されるというか。

カメラバッグの時もそうでした。ころんとしたフォルムを成り立たせるために考えた構造が、結果的にカメラの保護性を担保してくれた。あのフォルムを作るために割と厚めのスポンジを使ったのですが、それによって保護性が高まったんです。

カメラをもっと身近な存在にする
『Essential Camera Strap』の完成

角森:このストラップはシルエットとしての面白さが、審美的な部分だけにとどまらず、機能的な部分にも寄与しています。

角森:例えば、ストラップの本体部分はコバを使わないへり返し仕様を採用しました。

一般的にレザーストラップはコバインクで側面を塗布することが多いのですが、経年変化でインクが割れてしまったら結構ストレスになると思ったんです。それこそ、渚さんが身に付けるものがコバ割れして劣化してしまっていたら嫌だなと思って。

 

へり返し仕様を採用したことで、ミニマルな美しさも実現できました。さらに、クッション性に優れた芯材を入れたことでふっくらした表情を出すことができましたね。

市川:なかなか気付かないところだと思いますが全てのデザインには理由があって、全体の佇まいというのは細部をどうするかで変わると思います。

 

ぱっと見はただシンプルでスタイリッシュなカメラストラップですが、使ってみると発見があるのでぜひ体感していただきたいです。

カメラを持ち歩きたいけど少ししんどいなって思うのは、実はストラップが原因の部分もあったのではないかなと。

だからこのストラップをきっかけに「もっとカメラを持ち出してみようかな」と思えるような、カメラを楽しむための気分が上がるプロダクトとして使ってもらえたら嬉しいですね。

objcts.ioとコラボレーターが備える強みと特徴を掛け合わせ、これまでになかったようなプロダクトを共に創り上げる「Co-Prototyping」プロジェクト。

市川さんとのコラボレーションだからこそ辿り着けたものづくりの新しい形を、『Essential Camera Strap』で体現することができました。

今後も、私たちにない気づきをもたらしてくれるパートナーと共に、objcts.ioらしいプロダクトの開発を進めてまいります。

 


記事内で出てきた製品

エッセンシャル カメラストラップ


スマホショルダー


More Journals

  • デザインの意図 - エッセンシャル カメラストラップ-

    Read
  • デザインの意図 ジョリーグリーン/ラピスブルー

    Read