Takram 渡邉康太郎が心惹かれる 「ストーリー」と「ものづくり」の関係 / User Interview vol.6
User Interview Vol.6
Takram 渡邉康太郎が心惹かれる
「ストーリー」と「ものづくり」の関係
objcts.ioのユーザーの方にインタビューする企画。第六弾でお話を伺ったのは、世界を舞台に活躍するデザイン・イノベーション・ファーム「Takram」で、コンテクストデザイナーとして活躍する渡邉康太郎さん。
使い手と作り手の境界を曖昧にし、使い手の数だけ「ものがたり」が生まれる余白のある「ものづくり」に取り組む渡邉さんに、愛用するobjcts.io製品や長年の趣味である茶道について、また、もの選びのベースとなる価値観について伺いました。
偶然が続いた、objcts.ioとの出会い
---objcts.ioを知った経緯を教えていただけますか?
同じくTakramの佐々木さんや緒方さんがobjcts.ioの製品を使っていて、それが最初に知ったきっかけだったと思います。
objcts.ioのデザイナーである角森さんとは、TakramとISSEY MIYAKEによるプロジェクト「FLORIOGRAPHY(※)」を奥様にプレゼントされたという投稿をTwitterで拝見して、僕からコンタクトを取りました。
そのあと2019年に、あるビジネスイベントで偶然お会いして。名刺交換をした時に「この名前見たことあるなぁ」と思ったら、ツイートしてくれた角森さんだったんですよね。
※ISSEY MIYAKEのテキスタイルで作られた花のコサージュとメッセージカードのギフト
息子誕生!
— ツノモリ サトシ / objcts.io Product Designer (@tsuno_11110) January 4, 2019
年末年始は慌ただしく過ぎ去っていったけど、この寝顔が全てを癒してくれる。
妻のために買った"FLORIOGRAPHY"は妻と息子へのプレゼントとなりましたとさ。
ISSEY MIYAKE @ymiyamae さんとTakram @waternavy さんの素敵なプロダクト。 pic.twitter.com/IuwFFfRtFv
---展示会でお会いした後も、デザイナー・角森と偶然の出会いがありましたよね。
そうそう!東京へ帰るフライトを待つ福岡の空港ラウンジで、また角森さんをお見かけしたんです。肩をトントンとしたら、ラウンジ中に響き渡る声で「わっ!」と驚かれてました。笑
その時ちょうど、角森さんが僕宛にメールを書いていたタイミングだったらしくて。「渡邉さんの顔を思い浮かべながら書いていたので、まさか本人がいるとは思わず」と。こんな偶然もあるのかと、何か縁を感じましたね。
---その後もご縁が重なり、『ソフトバックパック(※)』は2年ほど前に渡邉さん特別仕様で作ったものをお贈りしました。『ウォッシャブルレザートート』は、いつ頃から使われているんですか?
『ウォッシャブルレザートート』は、京都に行った際に偶然objcts.io代表の沼田さんにばったり会い、その時ちょうどこのトートを肩に掛けていたんです。「それいいですね」と話したら、「もうすぐ販売するんですよ」と教えていただいて。その日にウェイトリスト登録をしました。
※渡邉さんご愛用の『バックパック』は、非売品となります。ご了承ください。
※『ウォッシャブルレザートート』は終売いたしました。
---『ウォッシャブルレザートート』のどこに惹かれたのでしょうか?
objcts.io製品の魅力は「装飾のストイックさ」だと思うんです。装飾が最低限といいますか。このトートバッグは、それを一番ミニマルに表現しているような製品だと思いました。ほぼ一枚の布を携えるような感じがいいですよね。
---それぞれの製品は、どのように使い分けていますか?
『ソフトバックパック』は仕事用に使っています。これは以前まで販売されていた、薄型タイプのもので、非売品だったカラーで作っていただいたんですよね。PCと仕事関係の本、スケッチブック。あとは、マスク入れ、名刺、財布、ティッシュとウエットティッシュをまとめたポーチ、仕事の関係で持ち歩きながら読んでいる本が3冊です。
このドミニク・チェンさんの『未来をつくる言葉』は、もともと僕が大好きな本で、熱心に読んでいたのですが、文庫化 (※)にあたって解説と装丁のお仕事の話をいただいて。好きな本の解説というのは、書いても書いても自分の納得できるものにならないものですね。思いは溢れてるけど、言葉が追いつかないというか。
もう一冊も、同じくドミニクさんに縁が深いものだと思い、解説を書くために読んでいます。あとの一冊は、今度翻訳を担当された方とトークイベントを行うので、今必死に勉強しています。笑
※『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために―』新潮社(文庫版)
※書籍は、下段左から : 『デュシャンは語る(マルセル・デュシャン/ピエール・カバンヌ)』、『ダイアローグ(ヴァージル・アブロー)』、『未来をつくる言葉(ドミニク・チェン)』
---スケッチブックを持ち歩かれているのですね。以前から絵は描かれていたのですか?
実は最近、クロッキーを始めました。この絵は、石垣島を旅行した時に出会った牛です。僕は美術部や美大出身とかではないので絵の教育は受けていないし、仕事でも自分のスケッチが何かアウトプットに繋がるわけではないんです。だから仕事では手を動かすことを遠慮しちゃっていたんですが、最近は“気軽な趣味”ほど大事なように思えてきました。プロではない人が、自分の好きなことをのびのびと楽しんでいる社会の方が良いなと思えてきて。なので、僕ものびのびし始めました。笑
日本の美意識を学ぶために習い始めた茶道
---『ウォッシャブルレザートート』に入っているのは、長年続けられている茶道関連のものでしょうか?
そうですね。ずっと茶道をやっているので、週末は稽古のための道具を入れて持ち歩いています。茶道を始めたのは、「せっかく日本のデザイナーなんだから、日本固有の美意識を学んでおきたい」と思ったことがきっかけです。
15年ほど続けていますが、今やっと点前での最後の段階まで辿り着きました。この傳書(でんしょ)と呼ばれる教科書のようなものに沿って学んでいくのですが、文語調で書かれているので、そもそも読み解くのが難しくて。
なので、自分なりに噛み砕いて印刷したり、先生に指摘されたところをその場で書き込んだりして、まとめています。一応、正教授という指導資格まで取得したのですが、まだまだ学びがたくさんあって。むしろそこからやっと修行が始まる、と言われています。
最後まで一通り学んだ後に、“平点前(平手前)”という一番基本的なお茶を点てる動作をやると、初めの頃と全然違った体験になるんです。最初は無我夢中で、慌てながらでしかできなかったものを、他のもっと複雑な点前のバリエーションを一通り学んだ後で改めてやり直すと、あまりにあっさりしていて、むしろシンプルな洗練があると気づく。そういったところで日本ならではの美意識や奥深さを自分なりに再発見するような思いがあります。
そういう訳で、このトートバッグは茶道の稽古に通う以外にも、週末のちょっとした外出時とか、主にオフの日に使っています。
人のためにお茶を点てる楽しさもあります。以前は旅先にお茶の道具一式を持っていくこともありましたが、最近はなかなかできていません。友人宅でもう少しカジュアルに、となったら、コーヒーを淹れることもあります。例えば友達の家にお邪魔して、何かをご馳走になったら、最後は御礼としてコーヒーを淹れます。
90℃ピッタリに沸かせるケトル、豆香洞(とうかどう)という福岡のロースタリーのお気に入りのコーヒー豆、挽き目を120段階で調整できるミルなどを一式、無印良品のナイロンバッグにピッタリと収納して持っていったりしています。
※上記画像3枚は渡邉さん撮影
選ぶのは、ものづくりの裏側に
“ストーリー”を感じるもの
---今までデザインや素材の上質さ・高級感を重視してものづくりをしてきたブランドが、昨今ではそれらも維持しながら「機能性」も意識し始めているように思えます。様々なブランドが多様な視点でものづくりに取り組む中で、お客様に届いているものは何だと思いますか?
機能ももちろん大切だと思いますが、僕個人としては、より“ストーリー”を感じたいです。以前から『THE INOUE BROTHERS』という、コペンハーゲン生まれの兄弟が手がけるファッションブランドが好きなのですが、彼らが手がけるアルパカのニットも心惹かれるものがあります。
ボリビアやペルーなどの山岳地帯でアルパカとともに生きている民族。彼らと共に研究を行い、素材開発から行なっているんです。ただ生活の必需品だった家畜を、高級な衣服に仕立てるストーリーに魅力を感じました。品質もとても良くて気に入っています。
最近彼らが、ADISH(イスラエル・テルアビブを拠点とする、イスラエルとパレスチナのクリエイター集団によるストリートファッションブランド)とコラボしてつくったシャツがあります。
対立が続くイスラエル人とパレスチナ人が共同で作ったシャツがあるなんてすごい事だと、話を聞いた途端買ってしまいました。生地を編んだのはイスラエルのこの地域、刺繍したのはパレスチナのこの地域、といった感じで、タグにも背景がしっかり記載されていて。ブランドの信念に基づいて、この両地域の方々がものづくりに携わっているというストーリーを知り、魅力を覚えました。普段は刺繍が入ったものや柄物は全然着ないのですが、これは敢えて着たいなと思える、説得力のある物語を感じました。
---そのような作り手の話は、どういった場面で得ることが多いでしょうか?
作り手が直に語ってくれるのが好きなので、最近はものを買う時は友人のブランドの展示会に行くことが多いですね。デザイナーさんから直接、その年のテーマや彼らの今後の展望を聞いたりします。一度自分にピッタリ合うものに巡り合うと、よくリピートします。既に持っているアイテムの型違いとか、生地違いなどもよく買っています。
着心地や使い心地が分かっていて、自分の体や日々の生活、考え方にピッタリ合うものって、そんなに多くはないと思うんです。自分に馴染んだものに、愛着を持ちたくなるのだと思います。
---objcts.ioの製品ラインナップとして、「あったらいいな」と思うものはありますか?
直接スマートフォンに取り付けられる仕様のショルダーストラップが欲しいです。僕はよくウィメンズものの洋服も着るのですが、女性ものの服ってポケットが付いていないものが多くて、スマホの居場所がないんですよね。なので、iPhone単体で肩掛けできるものがあったらいいなと思っていました。
---実は、iPhoneケースに直接取り付けられる製品『iPhoneケース フフラットストラップモデル』を近々販売予定です。
そうなんですね!ぜひ使ってみたいです。
objcts.ioはiPhoneケースやバックパックの他に、過去にドローン専用のバッグも作っていましたよね。その他の製品開発にも共通している、デザイナーの角森さんが大切にされている「たった一人のためのものづくり」という視点は、僕が提唱する「コンテクストデザイン」に呼応するところがあると思っています。
具体的な“たった一人”に寄り添い、その人の声に耳を傾けることで生まれる製品は、新たな価値を見いだせるのではないかなと。それは、僕の考える「コンテクスト=(ラテン語で)共に編む」の取り組みに通じています。前からお話していましたが、ぜひ機会があれば、そんな“たった一人”に寄り添えるようなバッグを一緒に作れたら面白そうですね!
※現在『iPhoneケース フラットストラップモデル』は『アジャスタブルレザーストラップ + iPhoneケースセット』として販売中です。
渡邉 康太郎 / Kotaro Watanabe
Takram コンテクストデザイナー
慶應義塾大学SFC特別招聘教授
東京・ロンドン・NY・上海を拠点にするデザイン・イノベーション・ファームTakramにて、使い手が作り手に、消費者が表現者に変化することを促す「コンテクストデザイン」を掲げる。組織のミッション・ビジョン策定からサービス立案、アートプロジェクトまで幅広く牽引。近著『コンテクストデザイン』は青山ブックセンター2020年総合ランキング2位、21年4位。趣味は茶道、茶名は仙康宗達。大日本茶道学会正教授。81.3FM J-WAVE 木曜日26:00-27:00の番組「TAKRAM RADIO」ナビゲーター。国内外のデザイン賞の受賞多数。独iF Design Award、日本空間デザイン賞などの審査員を歴任。
Twitter : @waternavy
note : 渡邉 康太郎 / Takram
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