User Interview Vol.7 前編 - 2人の「作り手」が共鳴する、 「ユーザー目線」の重要性と オンオフの境界が曖昧になる過ごし方

User Interview Vol.7 前編
2人の「作り手」が共鳴する、
「ユーザー目線」の重要性と
オンオフの境界が曖昧になる過ごし方

objcts.ioユーザーの方にインタビューする企画。第七弾でお話を伺ったのは、「世界一じゃなく、あなたの人生最高に。」の想いを込めたチーズケーキブランド「Mr.CHEESECAKE」代表取締役で、シェフの経歴も持つ田村浩二さん。

 

「使い始めてから、全く背負わなかった日は1日もない」と話すobjcts.ioの製品や、作り手と経営者の両視点から追求する、“おいしい体験”を実現するための取り組みなどを伺いました。

 

同じ作り手として弊社デザイナーの角森が共鳴し、2人が目指す、それぞれのものづくりの未来とは。熱く語り合った様子を、2回に分けてお届けします。

objcts.ioとの出会いを繋いだ、人の縁

角森: 初めて田村さんとお会いしたのは、2019年でしたよね。改めて、objcts.ioを知っていただいた経緯を教えていただけますか?

 

田村: メッセンジャーを遡ると、2019年の1月に連絡をいただいています。きっかけは、市川渚さんでした。

 

角森: 当時、クリエイティブコンサルタントの市川渚さんが「Mr.CHEESECAKE」の撮影のお仕事をされていましたよね。渚さんがobjcts.ioの製品を使ってくださっていたから、おそらく、

その繋がりで知っていただいたのだと思います。

 

田村: ちょうどその頃、レザーバッグをずっと探していました。探し始めた当初は別ブランドのバックパックを使っていたのですが、見た目の割にバックパック自体がかなり重くて、ストレスに感じていました。

 

フォーマルに寄り過ぎた鞄はクラシックな印象というか、あまり自分の雰囲気と合わないなと感じるのですが、カジュアル過ぎても使う場所が制限される。なので、どちらも兼ね備えたちょうど良いものを探していました。

あとは、僕は気に入ったら同じ製品をずっと使い続けるタイプなので、時間と共に味が出る、レザーのバックパックを探していました。

 

それで、渚さんからお話を伺って日本橋のアトリエを訪れたのが、objcts.ioとの出会いだったと記憶しています。そこから数えると、もう5年ほど経ちますね。

 

角森: そうでした。その時、田村さんに「Mr.CHEESECAKE」のチーズケーキを直接いただきました。初期の頃、保冷シートに包まれた状態のケーキだったと思います。

 

田村: 懐かしい、本当に初期の頃ですね。

角森: 田村さんはこれまでobjcts.ioのバックパックを、2つご愛用いただいていますよね。初代のバックパックはブラックで、2代目はグレーを。

 

田村: 確か、最初のバックパックは「ミディアム」だったと思うのですが、2代目のグレーは「ラージ」を使っています。僕はPC以外にも色々荷物を持ち歩くので、もう少し大きいサイズが良いなと思って、当時の白金ショールームに伺い、「ラージ」を見せていただきました。

 

実際に販売されているものはステッチが「白」だと思うんですけど、僕が「ステッチもグレーが良い」とわがままを言って、特別に色を変更していただきました。会う人にバックパックについて聞かれるたびに、「これ、特注のグレーステッチが刻まれた鞄なんだよ」って自慢しています。笑

この先も長く、
“自分だけの鞄”と過ごせるように

角森: 今回のインタビューをご依頼するにあたり、田村さんのバックパックの状態を見せていただいて、その使い込まれ方には驚きました。笑 そこでリペアをご提案したのですが、実際の仕上がりをご覧になってみて、いかがでしょうか?

 

田村: 想像以上の仕上がりで驚きました。新品っぽい感じだけど、使用感がちゃんと残っています。背負った時の肩への馴染み具合が違いますね。僕の身体に沿うような形が残っていて、本当に嬉しいです。リペア前と後のビフォーアフターを、Twitterに載せても良いですか?

角森: もちろんです。

田村さんは身長も高いし体格ががっしりしているので、「ラージ」がとても似合いますね。ここまでしっくりくる人は、なかなかいないんじゃないかと思います。

 

田村: いや本当に、ショルダーが柔らかいので肩に馴染みます。スーツケースに固定するバンドもあるので、海外旅行の時にも活躍してくれそうですよね。今年のGWは久しぶりにパリに行く予定なので、連れて行きます!

 

角森: 普段バックパックには、何を入れていますか?

 

田村: 自分の荷物に関しては細かいこだわりはないので、ちょっと雑なんですけど、まだ一回も使ってないGoPro。1週間ほど前に購入しました笑。

 

あと、僕を象徴するアイテムは、『Anker』のバッテリーですね。これ一つで4回充電できます。僕は家でも、コンセントから充電しないんです。スマホの充電が切れた場合、コードのある場所でしか使えないのがすごく嫌で。なので基本的には、このバッテリーをずっと持ち歩いています。だからなのか、いつも入れているバックパックの外ポケットがへたってしまって、くたっとした状態になるんです。

田村: ミニマルなデザインはそのままで、バックパックの下部にポケットがあると有難いです。

 

角森: 表側?それとも内側ですか?

 

田村: できれば表側に一つ欲しいです。

バックパックを背負った状態で、すぐに荷物を取り出したくて。個人的に、この外ポケットの位置がもうちょっと下にあると更に嬉しいんですよね。それか、サイドにも収納があると良さそうだなと思ったりもしたんですが、デザインが野暮ったくなるのは避けたいし。このシンプルな見た目のデザインのまま、なんとか開発していただけたら嬉しいです。笑

 

角森: ポケットの数や位置は開発の時にだいぶ色々悩んだんですよね。まさにそのバランスを取るところが、非常に難易度が高くて…。考えてみます!笑

お客様と同じ“環境”と“目線”で、
試作品のおいしさを確認する

角森: 普段は主に、MacBoookとGoPro、カメラとバッテリーを持ち運んでいるのでしょうか?

 

田村: そうですね。あとは、財布やメガネなどです。

 

角森: そうなると、バックパックは荷物で膨らむことはあまりないですか?「ラージ」だとかなり容量が余りそうですね。

 

田村: 常にパンパン、という状態にはなりませんが、僕は試作品を必ず自宅で食べるようにしていて。その時に、保冷バックに入った試作品のケーキを2,3本、バックパックにしまって持ち運んでいるんです。紙袋を持つのがすごく嫌で、手を塞ぎたくないので。だから、鞄の中はいつも敢えてスペースに余裕がある状態にしています。

 

出張などで、2泊3日の外泊をするときも、このバックパックを連れて行きます。洋服はたくさん持ち歩かないので、いつもの荷物に加えて下着だけ追加で入れる感じで。

 

角森: ありがとうございます。本当にいつも使ってくださっているんですね…!

 

田村: はい。このバックパックを使い始めてから全く背負わなかった日は、1日もないと思います。

 

角森: 作り手としてすごく光栄です。ちなみに、試作品を自宅で食べるのは、どういう理由があるんですか?

 

田村: 生産用のキッチンでももちろん食べるんですが、ある程度完成まで近づくと、自宅に持ち帰って食べてみるようにしていて。お客様と同じシチュエーションで味わうために、敢えてそうしています。

 

「Mr.CHEESECAKE」で提案している製品の食べ方に沿って、お客様と同じプロセスを辿ってみるんです。具体的には、自宅の冷凍庫で一定期間保管する・冷凍庫から取り出して、すぐに食べる・冷凍庫から冷蔵庫に移して、解凍してから食べる、の3つの工程ですね。

 

この過程を経ることで、お客様が体験される設計を考え直したり、単純に“試食”という形ではなく、“お客様と同じ目線”で「自宅でケーキを味わう」という体験ができる。そうすると、改めて正面から製品と向き合えるんです。自分が納得したものだけを世に出すために、販売している全ての製品で、この工程を踏んでいます。

角森: それは、僕も本当に共感します。

 

objcts.ioは「自分達が欲しいものを作る」というところがスタートにあるので、作り手の僕らも絶対に開発した1stサンプルから使っています。試作品を実際に使用して確かめないと、的外れの機能を入れてしまう恐れがあるんです。使い手の気持ちを汲み取ることができないというのもありますし、何より自分が「欲しいな」とか「いいな」と思えるものを作り続けたいですよね。

差し色としても活躍できる「グレー」の
『ウィークエンドカメラバッグ』

田村: バックパック以外だと、『ウィークエンドカメラバッグ』も購入しました。

 

角森: ありがとうございます。田村さんの場合、あまりカメラバッグの出番はないですか?

 

田村: そうですね。休日しか使わないので、バックパックに比べると綺麗な状態です。笑

 

角森: 『ウィークエンドカメラバッグ』もグレーを使っていただいていますが、ブラックと比較すると、使用している時の気分は違いますか?

 

田村: 僕は黒の洋服を着ることが多いのですが、黒の洋服に黒の鞄を合わせると、全身が真っ黒になるんですよね。それもいいんですが、個人的にちょっと雰囲気を軽くしたいので、グレーの方が差し色として楽しめます。

 

グレーの場合、他の色と喧嘩することがありませんし。一番好きな色は黒ですが、やはり色の印象が強くなってしまうんですよね。

 

角森: 確かに、黒だとモードな印象が強いので、バランスをとりたくなりますね。

 

田村: 僕は、ファッションに合わせて鞄を使い分けることをあまりしたくないんです。そこに思考を割きたくないタイプで。なので、ずっと一個の鞄を使うとなると、グレーがすごくちょうど良いなと。ブラックももちろん良いんですけどね。

 

角森: 分かります。黒だけに染まってしまうと、なんというか「黒を着とけば大丈夫」みたいになってしまいがちですもんね。

 

田村: そうそう。黒が好きだから敢えて着てるので、際立たせるために他の色を取り入れたいなと思うことが多いです。

 

カメラバッグはオンオフを切り替える、
スイッチのような存在

角森: カメラは常に、持ち歩かれているんですか?

 

田村: そうですね。『GR IIIx』と財布、スマホだけを鞄に入れて持ち歩くことが多いですね。

 

なので、パソコンを持ち歩かなくても良い時が、自分の中で仕事を忘れられる日になっています。このカメラバッグを使うときは、休日感が自分の中で明確に出るんです。気分が切り替わるスイッチの役割を果たしてくれていますね。

 

角森:僕の勝手なイメージだと、田村さんは休日も関係なく仕事をされていそうで、あまりオンオフはないのかなと思っていました。

 

田村: 実際は、ほとんどありませんね。笑 休日でもバックパックを使っている日が多いのですが、そんな中でも「今日はゆっくりしよう」と決めた日は、カメラバッグに持ち替えています。

 

あとは、外食をする時や妻と一緒に出かける際は、カメラバッグを使っています。なので、カメラバッグとしての役割だけではなく、サイズ感を含めてバッグとしてバランスが取れているところが気に入っています。

角森: 多忙な田村さんの気持ちの切り替えにも貢献できて、嬉しいです。完全なオフの日は、奥さまとお出かけになることが多いのでしょうか?

 

田村: そうですね。妻と出かけるか、一人でのんびりするか。そのどちらかです。

一人の時は、サウナに行ったり、映画館で映画を鑑賞したり。頭を空っぽにする時間を設けています。2ヶ月に1回くらいだから、あまり頻度は多くないんですけどね。笑

 

僕は仕事が好きなので、ずっと考えている方が楽なんです。考えないようにする方が、かえってストレスに感じてしまいます。

 

角森: リラックスしたことによって気持ちに余白が生まれると、また何か製品開発に活かせるようなアイデアが浮かんでしまうから、結局動いてしまいますよね。

 

田村: そうなんです。

時間に余裕が生まれると、普段は考えられていないところに向き合うことができて。すると、思ってもみなかったような意外な引き出しが開いて、ずっと煮詰まっていたアイデアの解決策が突然閃くので、結局そのまま仕事をしてしまいます。笑

 

角森: そういう思考の流れってありますよね。全てがものづくりに繋がっているんだなと、改めて思います。

角森: objcts.ioの製品を愛用してくださっている田村さんにお聞きしてみたいのですが、製品ラインナップとして「こんなものがあったらいいな」と思うものはありますか?

 

田村: objcts.ioのデザインが好きで使っている側面が強いですが、例えば、思いっきり機能軸に振った場合、製品の特徴である「ミニマルなデザイン」の束縛から解放された時に、一体どのような製品が出来上がるのかは気になります。

 

あとは、バックパックにいつも入れている「Mr.CHEESECAKE」専用のスプーンケースとか、「GR」シリーズ専用のカメラケースも欲しいです。気に入るデザインのコンデジ用ケースが見つからなくて、今はカメラをむき出しの状態で鞄に入れています。すごくピンポイントなところなので、難しいかもしれませんが。

 

角森: 「Mr.CHEESECAKE」専用のスプーンケース、面白そうです!

おそらくカメラバッグやケースに求められているものは、プロでない限りは、最低限の機能性と審美的な美しさの両方ではないかなと思います。

 

田村: そうですね。感度の高いカメラユーザーに響きそうなアイテムの一つになりそうです。

田村:あとは、包丁ケースも欲しいです。これも、好みのデザインになかなか出会えなくて。レザーで仕立てられたものを購入したこともあるのですが、いざ製品が手元に届いたら「やっぱり違うかな」と思って、今は押入れで眠っています。

 

角森:僕が文化服装学園で革製品を作っていた当時も、アルバイト先のシェフから「作って!」とお願いされたことがあります。笑

角森: 包丁ケースとスプーンケース、とても楽しそうでぜひ挑戦したいです。

実は、「そんなニッチなものを作るの?」と思われるようなものを開発するのって、意外と無駄になることはなくて。開発のプロセスで得たことや、知識や経験が次の製品開発に活きてくるので、日常で使う鞄作りにも役立つことが多いんです。

 

それこそ、渚さんと一緒に開発した、『マビックエアーバッグ』が良い例です。

ドローンバッグ専用の鞄を作ったことが大きなきっかけになって、『ウィークエンドカメラバッグ』を開発しました。ニッチな層に向けた製品だとは思いますが、それを形にして発売したからこそ、「カメラバッグとしても使える」という発見があって、次の製品開発に繋がるヒントが含まれている。そういうことは、起こり得ることだと思います。

 

田村: 面白いですね。

先ほど僕がお話しした、“頭を空っぽにする時間”にも紐付くかもしれませんが、僕ら作り手って周りにあるもの全てが、“新しいものを生み出すための材料”になりますよね。だから、一つひとつの些細なことにもアンテナを張って、“自分ごと化”することが大切なのかなと。

 

今日角森さんのお話を伺って、よりその思いが強くなりました。僕が希望したプロトタイプ、もし開発されましたら、ぜひ使わせてください!

 

※『マビックエアーバッグ』は、現在販売を終了しております。


田村 浩二 / Koji Tamura

 

Mr.CHEESECAKE 代表取締役

 

新宿調理師専門学校を卒業後、乃木坂「Restaurant FEU」にてキャリアを開始。ミシュラン二ツ星の六本木「Edition Koji Shimomura 」の立ち上げに携わり、表参道の「L'AS」で約3年務めたのち、渡仏。

World's 50 Best Restaurants 2019 の1位を獲得したミシュラン三ツ星のフランス南部マントン「Mirazur」、一ツ星のパリ「Restaurant ES」で修業を重ね、2016年に日本へ帰国。2017年には世界最短でミシュランの星を獲得した「TIRPSE」のシェフに弱冠31歳で就任。

World's 50 Best Restaurants の「Discovery series アジア部門」選出、「ゴーエミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞」を受賞。 現在はMr. CHEESECAKEの他、複数の事業を手掛ける事業家として活動。

 


記事内で出てきた製品

ソフトバックパック

ウィークエンドカメラバッグ


More Journals

  • User Interview Vol.7 後編 - 「おいしい体験を届けるために」田村浩二の眼差しに宿る、強い光の理由

    Read
  • User Interview Vol.7 後編 - 「おいしい体験を届けるために」田村浩二の眼差しに宿る、強い光の理由

    Read