特別座談会 vol.2 ブランドが伝えたい事と アイテム選びの条件
特別座談会 vol.2
ブランドが伝えたい事と
アイテム選びの条件
TOMORROWLANDプレス 川辺圭一郎
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エディター/ライター 川辺伸太朗
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objcts.ioデザイナー角森
大手セレクトショップでプレスとして発信されている兄の圭一郎さん。そして、雑誌『POPEYE』など、各所でフリーのエディター / ライターとして活躍されている弟の伸太朗さんをお迎えして、objcts.ioの製品をより楽しむヒントを探る座談会。
前回のvol.1「objcts.ioで楽しむ、オンオフを問わないスタイリング」では、『ウォッシャブルレザートート』を使用されたご感想や、ファッション業界で活躍されるお二人ならではのご意見などを伺いました。このvol.2では、objcts.ioが製品開発する際のこだわりや、圭一郎さんと伸太朗さんのファッションへのこだわりを伺いながら、魅力的なブランドのあり方について考えます。
左から
objcts.ioデザイナー角森
TOMORROWLANDプレス 川辺圭一郎さん
エディター/ライター 川辺伸太朗さん
作り手だからこそ感じる
ブランドが伝えるべきこと
圭一郎
やっぱり作り手の方からお話を聞くと、製品が作られる具体的な理由が知れて面白いですね。僕はプレスという仕事柄、ブランドや製品の魅力をどうお伝えするか日々考えているんですが、今みたいなお話を聞くとより信頼感が増すなと改めて思いました。
角森
ありがとうございます。最近はブランド側から発信するのが当たり前になってきましたが、僕自身もその伝え方や内容についても考える機会がすごく増えました。元々僕自身が職人だったこともあり、バッグやファッションアイテムを見たときに感じたことや改めて考えてみた事などを、言語化してnoteの記事にまとめたりしています。
LOEWEの『バルーンバッグ』など、他社の人気製品についても作り手の目線で面白いと思う点を記事にまとめてみたのですが、マニアックな内容ながらも多くの方からご好評いただいたんです。
角森
私自身決して言語化するのが得意な訳ではないのですが、鞄職人が自分の言葉で説明するコンテンツってあまり多くはないですし、自分にしか語れないことがあるんじゃないかと思って始めました。作ることと伝えることをちゃんと両立していきたいな、と。
圭一郎
なるほど、職人出身だからこそ発信できるコンテンツって面白いですね。あらゆる角度から見たうえで、そのブランドならではの魅力を見つけて伝えるって、やろうと思ってすぐに実現できるものではないですし。模索しながら見つけていくもの、という側面もありますよね。
新しいブランドには特に当てはまることかもしれないのですが、ストーリーがないとなかなか目指していることや言いたいことが伝わりづらかったりしますよね。ブランドのPRをやっている身としても、そう感じる事がすごく多いです。弊社でも別注を展開しているので色々なブランドを取り扱うのですが、伝え方や見せ方を一歩間違えるとお客様に全然響かないということもあって。
せっかく素敵なブランドやアイテムがあっても、その魅力がなかなかうまく広がらない原因は伝え方にあるんじゃないか、なんて話もよくされたりします。だからこそ、角森さんのように製品について熟知している作り手の方が自ら発信できるっていうのは大きな強みだと思いますし、すごいことですよね。
角森
僕が元々職人だったからか、どうしても”モノ思考”というか、良いものを作ることばかりに頭がいきがちなんです。でも、良いものを作ってもそれを知ってもらわないと、当然使ってもらえるところまで行かないですよね。なので、まだまだ努力中ではありますが、”モノ思考”でいる自分を1回俯瞰してみて、「これどうやって伝えようかな。」と考えるようにしています。
圭一郎
難易度が高いですし、なかなか体力がいる作業ですよね…。note、ファッション好きな人が読んでも面白そうですね。自分の好きなブランドの定番製品について、造りがどうなってるかは中々知る機会がないですし。ぜひ拝見します!
細部に込めた
ブランドらしいこだわり
角森
作り手としてお伝えしたい事でいうと、たとえばトートバッグの持ち手を固定しているこの部分、鳥居のような形のステッチ(縫い目)が入ってるじゃないですか。これは、縦方向、横方向どちらから高い負荷がかかってもバッグが壊れないようにする意味があるんです。パッと見はわかりにくいんですが、ステッチの真ん中で縫い終わるようになっていて。
縫い始めと縫い終わりが端の方にあると、その端に負荷かかり、そこからほつれてくるので、ステッチを入れる順番を普通と少し変えて、スタートと終わりを中心にして出来るだけ糸がほつれ無いように工夫しているんです。
伸太朗
本当だ、言われてみればたしかに!ちなみにこれで何キロぐらい耐えられるんですか?
角森
弊社スタッフが『ウォッシャブルレザートート』にSmart Keyboardを付けたiPad ProとMacBookの15インチ、その他にアクセサリ類や日用品、ペットボトルなどを入れて使っていますけど、合わせると4〜5kg弱くらいですかね。それくらいの重量であれば問題なく使えているので、あまり気にせず荷物を入れてもらって大丈夫です。
伸太朗
その内訳だと結構重そうな印象ですが、見た目よりタフな作りなんですね。
角森
耐久性を持たせるためにすごく細かいところをこだわっているのは間違いないですね。 一般的にトートバッグの持ち手部分に耐久性を持たせようとすると、バツの形にステッチを入れることが多いです。ただ、バツの形だとカジュアルな印象になりやすいので、このプロダクトを使用するシーンを考慮して、このようなステッチの入れ方なりました。
わざわざ全部伝えたりはしないのですが、こうやってお会いしてお話する機会があれば「実は…」みたいな裏話をすることもあります。細かすぎるので、商品ページに入れるような情報ではないのですが、それこそnoteの「デザインの意図」というシリーズでお伝えしているような内容ですね。
圭一郎
素敵ですね、一見すると分からないような隠されたこだわりがあって。そういう話を聞くと、使っているときの気分もすごく変わりますよね!買った後に聞いても、さらに愛着が沸くようなポイントだと思います。
こちらはなんですか?この立体的な部分。
角森
これは他の製品にも入っているんですが、ブランドのアイコンです。
ブランドを正式に立ち上げる前に、試作品としてブランドロゴを入れたものも作ってみたのですが、自分たちが出す製品にはそういった主張は不要かも、という話になって。社内メンバーで色々話し合った中で、ロゴを目立つ形で出すよりも、匿名性のある雰囲気の方が自分たちが使いやすいよね、という結論に至ったんです。なので、この形でシンボライズすることになりました。
圭一郎
なるほど、自然でいいですよね。「それどこのバッグ?」っていう話のキッカケにもなりますし。ロゴが出ているものの良さもありますが、ブランドの雰囲気的にはこちらの方がしっくりきますね。
角森
僕たちはこういうのをスポンジワークと呼んでいるのですが、この浮き出し部分の裏には実際にスポンジが使われているんです。代わりにレザーを使ったりすることもあるんですが、基本的には緩衝材として使っているスポンジを活用しています。
ただ、このスポンジワークも見た目のアクセントとしてだけでなく、機能も持たせたいと思って使っているんです。なので、トートバッグの周囲にもこのスポンジワークを応用して、縁取りのように入れることで、シルエットを綺麗に保つ役割にもなっていますね。アートを縁取る額縁の役目みたいなイメージです。
シンプルなトートバッグだからこそ、結構作るのが難しくて。ブランドらしさを製品に落とし込みながら、でもやりすぎないようにバランスを考えています。
ファッションを愛する兄弟の
琴線に触れるアイテム選び
角森
作り手からお伝えしたいこだわり情報はまだまだ沢山あるのですが、実際にお客様がものを選ぶ時って、人によって結構ポイントが様々ですよね。お二人はどんな基準でファッションアイテムを買う事が多いですか?それぞれファッションスタイルも違うタイプなのかなと思うのですが。
伸太朗
僕はちょっと抽象的なんですが、かっこよさが第一というよりは、なにかアイテム自体に面白さがある中でかっこよさを感じられるものが好きですね。遊び心があるけど身につけるとかっこいいとか、渋さを感じられるとか。人と被らないというのも大事にしているので、尚更そういった物に惹かれるのかもしれません。
エディター/ライター 川辺伸太朗さん
角森
なるほど、今日着ていらっしゃるシャツもそんな伸太朗さんのこだわりが垣間見える気がします!ユニークでいながら、着た時のかっこよさも感じられるスタイルですね。お好きなブランドや常にチェックしているお店はありますか?
伸太朗
『PHIPPS』はけっこう好きなブランドですね。 Dries Van Notenのデザインチームにいた唯一のアメリカ人デザイナーが手がけるブランドなんですが、彼自身が自然が大好きで、環境にもすごく配慮していて。自転車も乗るし、身体を鍛えるのも好きだけど、もちろんすごくおしゃれで古着も良く着ている方なんです。僕もスポーツが好きなので、そういう要素が絡んでいるとより共感して「なんかいいな」って思っちゃいますね。
角森
ものを選ぶ上で、ブランドの信念に共感できるかどうかも大きな判断ポイントですよね。それがここまでユーザーに伝わって、ちゃんと響いているのもすごいなと思います。とても参考になりますね。
圭一郎さんはまた違ったスタイルをお持ちかと思うのですが、こだわりについてぜひお聞きしたいです。
圭一郎
僕は、基本的にはトラディショナルなものが好みのベースにありますね。ミリタリーやワークな要素とか、昔からある普遍的な男性用の服、といったイメージです。
実はトレンドはそこまで意識していなくて、それよりもずっと長く愛用できるものが好きなんです。そういったトラディショナルなものが好みの軸になっていて、その上で素材がアップデートされているものは気になりますね。夏だったらナイロン生地だったり。モードブランドが作るトラッドなアイテムなんかもよく見ています。
TOMORROWLANDプレス 川辺圭一郎さん
角森
いまお聞きしたようなベースの好みがしっかりあると、たまに気分を変えたアイテムを選んでもしっかり馴染みそうですね。軸があるからこそ、物選びがしやすかったりするんでしょうか。
圭一郎
そうですね、昔からある変わらないものがベースにある方が、ひとつひとつのアイテムも浮かないですし、使いやすいというのはありますね。迷わず着られるというか。そこが、僕が物を買う際に考える大事なポイントになっています。
角森
なるほど。独自性やおもしろさ、昔から変わらず愛されてきたもの。ものづくりをする時にもすごくヒントになる要素ばかりですね。お二人の感性から生まれたそれぞれの基準があって、どちらもすごくユニークだなと感じました。
相手を想うものづくり
そこから広がる感動を目指して
角森
ものづくりのこだわりについて色々とお話しましたが、作り手の意図を超えて、お客様がいい意味で独自の使い方をされていることも多々あるんです。それがむしろ新たな発見にもつながるし、製品開発のヒントにもなっています。
圭一郎
面白いですね。でも、ひとつのアイテムを作る時に具体的にイメージしてる方がいるといういうのは、すごくいい話だなと思いました。それだけパッションを感じるというか。だからこそ、人によって使い方も多様になってくる部分もありそうですし。
角森
架空の人物を立てて、そこからコレクションを考えるデザイナーさんもいると思うんですが、個人的にはそのスタイルが得意ではないというのもあります。笑
特にその具体的にイメージしてる人が、自分の身近にいる人で、ちゃんと声を聞けるかどうか、その人が何に不満を感じているかなどが分かると、具体的なアイデアを結びつけやすいというのはありますね。
伸太朗
すごくわかる気がします。僕のライターという仕事においても、具体的に誰かをイメージすることもありますし。それにちょっと似てるなって、お話を聞いていて思いました。
ライターであれば読む人を、作り手であれば使ってる人を具体的に想像するという点は同じなんですね。
角森
そうかもしれないですね。イメージする人物によってはニッチなものができる可能性もあるんですが、もしその人が深く感動してくれるようなものを作れたら、その感動はその人を通じて広がっていくんじゃないかな、とも思っています。僕の場合、人物像が抽象的になりすぎると、結局誰も求めていないモノになりやすい気がするんですよね。
今回の洗えるレザーのような先進的な素材も、そんな僕たちらしいものづくりの中で違和感なく取り入れていきたいですね。今もちょっと面白いレザーを使って色々と試しているところなので、お二人の視点からまたぜひご意見を伺わせてください!
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