User Interview Vol.2 後編 ビジネスデザイナー 佐々木康裕

Text_Sana Tajika / Photo_Hanako Ueno
Edit_Aguri Kawashima

objcts.ioユーザーの方に、愛用の道具についてインタビューする企画。

第二弾でお話を聞くのは、デザイン・イノベーション・ファーム『Takram』でビジネスデザイナーとして活躍する傍ら、スローメディア『Lobsterr』の運営も手掛ける佐々木康裕さん。軽やかにビジネスとクリエイティブの境界線を飛び越える佐々木さんの想像力の根底には何があるのだろうか。インタビューの前編に続いて、後編では新作の「Weekend Camera Bag」と共に、写真や執筆などの表現について話を伺いました。


バックパッキング×フィルムカメラから
始まったカメラ遍歴

--お使いの機材や編集方法を教えてください。どんなところにこだわって機材選びをされていますか?

「CANON IOS7」、「GRフィルム」、「GR Digital」、「フジフイルムX100F」、そして2020年より現在は「SIGMA fp」を愛用しています。過去の遍歴を見てわかる方も多いと思うのですが、カメラを選ぶ基準は「いかに軽量でコンパクトかつデザイン性が高いか」というところ。現在愛用している「SIGMA fp」は、それらのポイントに加えて、機能性が高く、かつフルサイズミラーレスであることに惹かれて選びました。現像はVSCOという写真加工アプリを使用しています。

--写真を撮り始めたのはいつ頃からでしょうか?

高校までサッカーに打ち込んでいたのですが、大学では別の何かに情熱を注ごうと、写真部に入部しました。当時はデジタルカメラの画素数がまだまだ低く、デジタルカメラを表現として使うにはダサいみたいな風潮があったので、僕もモノクロのフィルムで撮っていましたし、暗室で自分で現像していましたね。

--当時はどんな写真を撮っていたのでしょうか?

大学生の頃はいわゆるバックパッカーで、バッグにフィルムを100本くらい詰めて、インドで写真を撮っていました。日本にいるときは、若くして土門拳賞(※1)を受賞した金村修さんに憧れて、モノクロで東京の街を撮っていました。彼の写真は情報量が多くて、自転車や電柱、歌舞伎町の看板とかが1枚にすべて写りこんでいる、ごちゃっとした感じ。僕の写真を見た友人から、金村修(※2)のパクリだ!と言われたこともありました(笑)。でも、撮影するときに意識していた憧れの金村さんの視点が、自分の写真でもしっかりと表現できていたのかと思うと、それはそれで嬉しかったです。

※1土門拳賞:写真家・土門拳の業績を称え1981年からスタートした、毎日新聞主催の写真賞。写真界の直木賞とも称される。選考対象はプロ、アマ問わず、受賞作は山形県の土門記念館にて永久保存される。

※2金村修:1964年生まれの写真家。2000年に、史上2番目の若さで土門拳賞を受賞した。雑多な街をモノクロフィルムで切り取った写真が特徴的。

 

「いかにも」な観光客スタイルに
ならないカメラバッグ

--「Weekend Camera Bag」購入の経緯を教えて下さい。

objcts.ioからカメラバッグがリリースされると聞いて、すぐにサンプルを2タイプお借りしました。小さいサイズは「SIGMA fp」やSONYの「α7」など小さめの一眼が納まるサイズ感。でも、僕の場合はカメラだけを持って出かける事はあまりないので、 Kindleや本、ノート、ペンなどが一緒に入る大きめのサイズのカメラバッグは理想的なバッグだなと思いました。


そもそも僕、カメラバックって持ったことがなくて、 家電量販店に行っても、いかにも「カメラが入っています!」といったデザインのものばかりなんですよね。だから、今までいいなと思えるカメラ用バッグを見つけられず、カメラを持ち運ぶ時はカバーをつけてリュックに突っ込んでいただけだったんです。 バッグを持ちつつ、さらにカメラも首に下げると、荷物量が多く見えてスマートなスタイルとは言えなくなってしまう気がします。荷物とカメラをひとつにまとめて肩から下げられるバッグは待望の存在。

 

旅行する時の、首からカメラを下げて歩くスタイルってあからさまに観光客ですよね。でも、このバッグなら、カメラを収納しつつスマホ、財布、パスポート、ポケットWi-Fiや充電器、ガイドブックといった、1日を過ごせるキットも一緒に持ち歩けるので、現地の人になじみながらスタイリッシュに観光できるなと思いました。東京にいるときとファッションへのこだわりを変えずにカメラを持って歩けそうなデザインも、魅力のひとつだと思います。

--2021年現在、気軽に旅行に行けない状況が続いていますが、海外を回るとしたらどんな場所を訪れたいですか?

海外への旅行回数を重ねる度、観光名所は程々に、その土地で暮らすように過ごす旅行スタイルが定着してきました。観光しているだけでは気付かないような発見があるのが面白いです。

 

・オーストラリア

まだ行ったことはありませんが、夫婦で運営している小規模ながらセンスの良いブランドや、独立系のスモールメディアなど、カルチャーが生まれる場所として、今メルボルンが面白いんじゃないかと思っています。多国籍都市なので、食べ物も選択肢があって美味しいし、オーガニック系のコスメビジネスも盛ん。長期で滞在してみたい場所です。

 

・コペンハーゲン

以前、2週間ほど現地の人の家に滞在させてもらったことがあるのですが、そのライフスタイルに衝撃を受けました。まず衝撃的だったのが、仕事を終えるのが夕方4時頃だということ。それから夕食の時間まで友人とボートで川に出て、自家用のチーズやワインを食べたりしてゆっくりと過ごす、というのを毎日やってるんですよ。羨ましい限りですね…(笑)。

 

・バルセロナ

ずっと好きな都市です。どこに行ってもご飯が安くて美味しい。

--スローメディア「Lobsterr」の運営、Takramでの業務などアウトプット先が多いかと思いますが、執筆と撮影という2つの行為の違いや、佐々木さんの携わる各領域の考え方に違いはありますか?

アウトプットとして2つの行為は区別されますが、やっている事の中身に違いはないんです。世の中で起きてる面白い変化を、編集してパッケージにして、クリエイティブに落とし込む。Lobsterrならそのアウトプットが文章だし、Takramだとそれがプロダクトやグラフィックになる。

 

イメージ的には”佐々木康裕株式会社”があって、“Takram事業部”と“Lobsterr事業部”がある。年を経るごとに主力事業が変わっていく感じでしょうか。今は主力事業がTakramで、新規事業がLobsterrなのですが。今後はバランスを取りつついろいろな事業をやっていけたらなと思いますし、そういった自由な働き方が世の中で当たり前になっていけばいいなと思います。

目の前の水を
どの角度で見たら面白いか?

--執筆や撮影の際に気をつけていることはありますか?

写真には2つのタイプがあると思っています。一つは、面白い被写体があってこその写真。海外の風景やモデルさんなど。僕の学生時代のインドでの写真もこのタイプ。もう一つはありふれた日常の中の被写体を、自分なりの面白い視点で切り取った写真。昔は前者の面白いものを撮りに行くというスタンスで写真を撮っていましたが、最近は日常をいかに面白く切り取れるかという方向にシフトしていっています。

 

写真と同じように文章も、“面白いものを対象にして何かを書く”のではなく、“そこにあるものを今までにない切り取り方で書く”、ということを意識しています。 たとえば、世界で誰も見つけいてない湧き水を探しに行くよりは、目の前にあるペットボトルの水をどの角度で見たら面白いか?というように。

自分でクリエーションしているつもりはなくて、すでにあるものを自分なりの角度で眺めてキュレーションする、といった意識が強いですね。 写真も文章も、表現をすることによって、自分の思考や現在地を改めて確認できる感覚があるんです。最近はコロナ渦で内省をする機会が増えたので、外へ外へと出て行くよりも、内へ内へと思考の方向性が癖づいてきているなと感じています。

--編集後記
スマートで都会的なビジネスパーソンとしての印象が強い佐々木さんですが、学生時代にバックパッカーをしていた経歴など、普段のイメージとは異なる一面を伺うことができました。海外旅行で新たな文化に触れたり、カメラで自分の視点をビジュアル化することは、「広い世界を自分の独自の視点で切り取る」ということそのもの。彼の横断的な仕事の数々を支える、思考の幅を広げるツールとしてのクリエイティブは、ワーク・フロム・ホームが日常化した、一見単調な毎日のヒントになるのではないでしょうか。


佐々木康裕 / Yasuhiro Sasaki

 

Takramディレクター/ビジネスデザイナー。デザイン思考や認知心理学、システム思考を組み合わせた領域横断的なアプローチでエクスペリエンス起点のクリエイティブ戦略、事業コンセプト立案を展開。

 

ベンチャーキャピタルMiraiseの投資家メンター、グロービス経営大学院の客員講師(デザイン経営)も務める。2019年3月、ビジネス×カルチャーのスローメディア「Lobsterr」をローンチ。

 

近著に「D2C 『世界観』と『テクノロジー』で勝つブランド戦略 」(NewsPicksパブリッシング)等。





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